上記写真は、副腎腫瘍の写真です。副腎腫瘍のなかでも、副腎腺癌という悪性腫瘍の写真になります。
副腎腫瘍は腫瘍の中でもそこまで発生率が高い腫瘍ではありません。また結構見逃されてしまう腫瘍でもあるので、従来までの発生率の低さはあまり信憑性が高いものではないとも言われています。なぜ見逃されてしまうのか?というと、2つ要因があると言われています。一つは、内分泌疾患であるクッシング症候群と非常に類似する症状を呈すること。もう一つが、副腎腫瘍の進行度が非常に遅いということが要因として挙げられています。
副腎という場所は様々なホルモン物質を分泌しますが、そのなかでもメジャーなものがステロイドホルモンです。正式名称はコルチゾールといいますが、そのコルチゾールは生体を維持していくためには必要不可欠なホルモン物質でもあります。上記に挙げたクッシング症候群は、大量のステロイドホルモンであるコルチゾールが分泌されてしまう病気で、体の中にステロイドホルモンが大量に存在することで、多くの臓器に悪影響を及ぼします。“ステロイド”という響きにあまりいい気持ちはしませんが、大量のステロイド剤を服用してしまっている状態になってしまうのです。特に肝臓、そして皮膚などに障害を与えてしまいます。今回取り上げさせて頂いた副腎腫瘍という病気も同じようにステロイドホルモンであるコルチゾールが多く分泌されてしまう病気です。但しクッシング症候群の場合は、高齢による病気でもあり、また脳(頭のなかにある下垂体というところ)が原因で起こる病気ですので、副腎腫瘍とは全く別のメカニズムでコルチゾールが分泌されています。副腎腫瘍は、副腎という臓器が腫瘍化してしまうことで発生し、そしてそれが悪性だった場合は転移もする病気ですので、病気の種類が違うというより次元が違う病気という表現が正しいかもしれません。ですので、初めはクッシング症候群だと思って治療をしていたが、副腎腫瘍だったということもしばしばあるのです(超音波検査などで左右両方の副腎の評価をしておけば間違えることはありませんが)。
また見逃されてしまう要因として進行度が非常に遅いとも書きましたが、以前私が拝読した論文では、副腎が腫大してから腫瘍化するまで、そして腫瘍化してから転移するまで、合計で1年から2年の時間を要するとまで言及されているものもありました。また、転移してから(特に肝臓など)も進行が遅く、治療を全くされてこなかった場合の生存期間は、病気が発見されてからは2〜3年間、転移が認められてからも1年間の生存期間を要するとまで言われています(カプラーマイヤー生存曲線によると)。また上記論文では、初めてクッシング様(クッシングのような)の症状を示したのも、病気が発見されてから約1年経過していた時点が多いという報告も出されていました(診断が超音波検査や血液検査であったため正確な数字とは言えませんが)。以上のように、発見されるまでも、発見されてからも、そして転移が認められてからも進行が非常に遅いという点につきるのが副腎腫瘍でもありますので、見逃されやすいということもうなずけれます。
今回このような特殊な腫瘍をピックアップさせて頂いた理由は、いくつかありますが、この副腎腫瘍という病気は上記にも書かせて頂きましたが進行が非常に遅いということもあり、悪性腫瘍でありながら完治が見込めれる悪性腫瘍でもあるということをお伝えしたかったのが、その理由です。今現在、“副腎腫瘍”という診断を受け、転移が認められていない子は諦めないで欲しいと思います(CT検査をして転移を確認していることが必須)。当院でもこれまで多くの副腎腫瘍の手術を行ってきていますが、その殆どが他の病院で診断および内科的治療をされてきた子たちばかりです(多くはクッシング症候群と診断され、クッシング症候群の治療のみしていなかったケース)。幸いにも手術をして完治している子たちは皆CTで転移の有無を確認し、転移が認められていない子たちでした。進行度が非常に遅い=転移も遅い、少し変わった腫瘍でもありますが、先述しましたように諦めるには早い腫瘍ですので、最後の最後まで諦めないでください。
松波動物病院メディカルセンター 獣医師 松波登記臣