甲状腺機能低下症をアップデート

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今日このような投稿をTwitterでしたのですが、もう少し専門的に甲状腺機能低下症について書きたいと思います。

犬の甲状腺機能低下症は犬の病気のなかでも稀な病気です。その全体の疾患の0.05~0.6%と言われています。結構幅がありますが、これらの海外からの報告はすべて古く、また大型犬が中心になっていることから、小型犬がメインである日本国内においてはあまり有用性は高くないような気もします。

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上記は以前私が学会発表したときのスライドです(日本獣医内科学アカデミー2018年2月)。甲状腺ホルモンの疫学的調査はかなり少なく検索するのに苦労しましたが、最も古いもので1981年で新しくても2004年になります。そこで私はとある調査をしました。

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400頭を対象とした大規模疫学調査です。ですがこのデータは1施設からなるオピニオンデータという調査になるので疫学的にはあまり信憑性は高くありません。ですが400頭はかなり驚異的な数字です。追記ですが、この臨床疫学は今現在とある医学雑誌に投稿中で、アクセプトを頂ければこのデータが最新知見になります。なので掲載されれば、オピニオンデータではありますが科学的には有用性は高いデータになります。

話を戻します。

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上記スライドで赤いカラムが付いているところが、甲状腺ホルモンの一つであるT4(サイロキシン)が基準値を下回った数と雌雄差とその全体の割合です(全体の17.5%が基準値を下回りました)。また年齢世代別に調べた結果が以下の通り。

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甲状腺ホルモンT4(サイロキシン)が基準値を下回った71症例の半数近くが10~15歳に集中していたことからいわゆるシニア世代を中心にサイロキシンが低下していることが理解できます。また犬種別にも調べてみました。

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上位5犬種では、1位はミニチュアダックスフンドでした。従来までの報告では大型犬がメインであり、唯一小型犬で取り上げられていたのがミニチュアダックスフンドでしたので、そこの部分では相関性がある結果にもなりました。

 

さぁ、ようやく甲状腺機能低下症の確定診断です

 

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確定診断をするうえで、重要な追加検査を実施しなければいけません(甲状腺ホルモンの遊離サイロキシンfT4と甲状腺刺激ホルモンTSH)。そして甲状腺機能低下症と診断できた症例は上記表にも書かれていますが、T4(サイロキシン)が低く、fT4(遊離サイロキシン)も低く(表では割愛)、さらにTSH(甲状腺刺激ホルモン)が高く検出されなければいけません。

ちなみに上記表の青カラムは“ユウサイロイドシックシンドローム”と言われる病態を指します。そのユウサイロイドシックシンドロームとは、甲状腺疾患以外の全身疾患を有し臨床的には甲状腺機能に異常のない患者における血清甲状腺ホルモン低値の状態といいます。つまり他の病気が甲状腺ホルモンの分泌量を阻害している状態です。なのでユウサイロイドシックシンドロームは甲状腺機能低下症ではありませんのでカウントしていません。

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結果です。甲状腺機能低下症疑いの症例は合計で27頭(全体の6%)でした。このパーセンテージについての説明は後述しますが、結構高い数字ですね。そしてシチュエーションですが、初診時と健康診断時にパキっと分けられました。それぞれの特徴を見ていきましょう。

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これら2つのシチュエーションをまとめてみると、以下の通りに。

好発犬種はミニチュアダックスフンド
好発年齢は10~15歳
好発雌雄はオス>メス
併発疾患は肥満症、高脂血症、皮膚疾患、クッシング症候群

甲状腺機能低下症において、ミニチュアダックスフンドが好発犬種であるということ、シニア世代に発症が多いということ、オスよりもメスが多いということ、皮膚症状や肥満症や高脂血症を含む脂質代謝性疾患が併発疾患で多いということ、これらは従来までに言われていることと一致しています。

しかしながら、その有病率の高さが非常に信じがたいほど高かったというのに疑問が残ります。

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そうなのです。6%は驚異的な数字なのです。しかしながら、これまでの報告のメインは大型犬であるということ、近年において大規模な疫学調査が行われていなかったということ、さらに日本国内では全くもって皆無だったということから考えるに、意外と6%という数字はあり得る数字なのかもしれません。それでも内分泌を専門とする私からしてもちょっと多すぎるかなとも思っているので、いろいろ検査方法などについて調べてみました。

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今現在この研究を投稿中なので考察に該当するところの参考文献は控えさせて頂ければと思いますが、上記のような報告がいくつか見つかりました。つまり、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の特異度は高いが感度は非常に低い、ということ。さらにグルココルチコイド製剤(ステロイド)の服用中もしくは抗てんかん薬(フェノバール)の服用中はTSHが上昇してしまうという報告もあったり。さらにクッシング症候群を併発している症例でもTSHがブレたりするという報告もあります。

この疫学調査を実施した私が思うに、

甲状腺機能低下症の実態調査は難しい

といこと。しかしながら先述しましたように、事実、甲状腺機能低下症の症例はいることはいて、投薬を開始すると明らかに臨床症状が改善する症例も多くいます。その臨床症状という目に見える事実をもとに治療効果を測定していくことは、臨床獣医師にとってかなり重要なことです。数字だけを見て「低いから処方」、皮膚を見て「甲状腺機能低下症っぽいから処方」ではいけません。インフォームを行い、追加検査を実施し、確定診断に繋げてこそが臨床獣医師が行うべきことだと私は思います。

 

最後に・・・

私たちの疫学調査で足りていないところは再現性です。但し臨床疫学において再現性を示すことはかなり難しいと言われています。ですので今後は前向き研究を合わせて行っていくことが非常に重要となってきます。またオピニオンデータだけでなく、多くの施設で同様の調査を実施することも非常に重要になります。これは宣伝ですが、日本獣医内分泌研究会という小さい組織が、日本獣医生命科学大学の先生方を中心に活動しています。もしご興味ある先生は、ぜひニッチな世界でありますが、ホルモン病の疫学調査や実態調査などにご協力頂けると嬉しいです。

松波動物病院メディカルセンター
獣医師 松波登記臣

 

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