表題にもありますように、獣医学領域の腹腔鏡手術において難易度が比較的高い手術として挙げられるのが、腹腔鏡下胆嚢摘出手術になります。その他にも、脾臓摘出手術、肝葉部分摘出手術、消化管異物摘出手術、副腎腫瘍摘出手術などありますが、手術件数もそこそこ多く、腹腔鏡手術を用いるのに最適だと思われるのが、この腹腔鏡下胆嚢摘出手術になります。
胆泥症、胆石症、胆嚢炎、胆嚢内ポリープなどの疾患が適応になりますが、全てがすべて腹腔鏡手術が適しているわけではありません。例えば、胆石症ですが、胆道、つまり胆管や総胆管などに細かい石が詰まってしまっていたり(胆管閉塞)、既に胆嚢が破裂してしまっており、衛生的にきれいではない胆汁がお腹の中に飛び散ってしまっていたら、それは腹腔鏡手術では太刀打ちができません。そのような場合は、開腹手術に移行するか、はじめから開腹手術で開始していくかと思われます。
腹腔鏡手術のメリットですが、以下のような点が優れていると思います。
- 出血量が圧倒的に少ない
- 傷の痛みが少ない
- 傷が小さいので飼い主さまの印象が良い
- 回復が早い
- 食事が早くとれる
- 退院が早い
それともう一つ、学術的なメリットもあります。
- 手術視野がよく見える
- 手術視野の共有化
- 教育に向いている
- 詳細な手術情報が記録できる
デメリットの話もしなければいけませんので、こちらも以下の通りです。
- 手術時間が長い
- ラパロスコピスト(術者)の技量に大きく左右される
- 費用が高い
このくらいしか思いつきませんが、但し、動物病院側のデメリットとしては、
- 術者がいる日にしか腹腔鏡手術ができない
- 第2術者の教育に時間がかかる
- 初期投資額だけでなく、特殊な器具を買い続けるために投資がかさむ
内部的な話になってしまい恐縮ですが、腹腔鏡手術をするうえで、新しい器械や器具などの購入、さらには教育や実習参加など、かなりお金と時間が掛かります。それでも、腹腔鏡手術が好きで素晴らしく思っている人たちが、ラパロスコピストなのです笑。
医療領域においては当たり前になってきている腹腔鏡手術ですが、獣医学領域ではまだまだ黎明期です。腹腔鏡手術が出来る動物病院も少なく、また設備が整っていても術者の技量や教育が進まず、ストップしてしまっている動物病院もあります。
好きだけではできない新しい分野ではありますが、私を含め、腹腔鏡手術に魅了され、それを広めていきたいと思っている獣医師の先生方は多くいらっしゃいますので、引き続き、普及啓発のために、日頃から自己研鑽を続けていきたいと思います。
松波動物病院メディカルセンター
獣医師 松波登記臣