膝蓋骨脱臼(通称パテラ)という病気は、ワンちゃんを飼っている飼い主さまなら一度くらいは聞いたことがあると思いますが、昨今小型犬が多く占める日本国内の動物病院では特別珍しい病気ではなくなりました。上記写真(引用:Southern Cross Veterinary Clinic)は、そのパテラの重症度を表した写真です。重症度1〜4まであります。
そもそも膝蓋骨脱臼とは、お膝の骨である膝蓋骨(英語でPatellaなのでパテラ)が元々はまっていたところから内側(もしくは外側)に転がり落ちてします現象をいいます。そのことで痛みを生じたり、脚を挙げたり、脚が曲がってしまったり、さらには膝のなかにある靭帯を痛めたり・・・それも重症度で症状が変わってきますが、かなり重症度によって症状のバリエーションが多い変わった病気です。
グレード1は簡単に言うと、外れるけどすぐ元の位置に戻って、症状も自覚症状もほとんどありません。また獣医師が指で膝を押すと外れるけど離すと戻ります。
グレード2は普段の生活で外れたりすると脚を挙げたりするが、外れた膝が元の位置に戻ったりすると症状も落ち着くレベルです。また獣医師が指で膝を押すと簡単に外れて、その後自然には戻らないです。
グレード3は常に膝が外れている状態です。痛みも伴うときもあります。獣医師が指で押すと正常な場所に戻りはしますが、指を離すとまた外れてしまいます。
グレード4は常に外れており、獣医師が指で戻そうとしても戻らない状態になっています。少し専門的な話をすると、グレード4になると膝の下の場所に位置するスネ(脛骨といいます)の骨が膝が外れている方向に曲がってしまっていることもあり、そこ周辺の靭帯も一緒に同じ方向に引っ張られてしまっています。それで膝から下の脚が内側に曲がって見えることもあります。
一般的にはグレード3以上から手術適応になってきますが、年齢が若いにも関わらずグレード2で症状が出ていたり(痛みがあったり脚を挙げたり)すると手術適応になってきます。またグレード4にもなると手術自体がかなり高度なテクニック要することになり、術後の合併症が発生する可能性も出てきますので、なるだけグレードが低いときに手術を薦められるのはそういう背景があるからだと思います。
当院でも膝蓋骨脱臼整復手術は多く行われています(セカンドオピニオンも含め)。月平均で5〜6件、多い時は10件以上も手術をしていますが、そのほとんどがグレード3以上です。グレード3以上になると先述したように専門的な知識と技術、そして経験が問われる手術方法そして術後の入院治療が必要になってきます。整形外科を専門とする専門病院とさほど変わらない数字だと思っています(患者数が多いので)。また特に私が重要視しているのは、術後の管理とリハビリテーションです。
パテラの術後は上記に挙げましたが非常に合併症が多いと思います。その代表的なのが、再脱臼やピン(グレード3以上ではピンを使用する手術方法があります)の破損などがあります。再脱臼は、また外れてしまうことですが、これは手術のクオリティーは勿論ですが、術後の管理が非常に大事だと思っています。病院によっては、即日退院させていたりしていますが、当院では絶対しません。理由は明確で、術後の治療、そして患部の包帯(固定)の管理、そしてアイシングなどのリハビリテーションは入院でしか出来ないと思っているからです。これらの作業を自宅で管理出来るとは到底思えません。また自宅でどれだけ工夫したところで安静などは難しいと思うからです。術後合併症である再脱臼やピンの破損などは可能な限り起こしてはいけません。当院では、最低でも5日間、抜糸まで入院する場合は10日間いることもあります。長く入院させることでご心配をお掛けしてしまうこともありますが、術後の合併症を起こさせないためには是非ともご理解頂きたいことだと思って、いつも飼い主さまにはご説明させて頂いています。
また退院後は必ず行って頂きたいのがリハビリテーションです。具体的にいいますと、水中運動(水中トレッドミル)ですね。手術によって落ちてしまった筋肉を復活させることが一番のリハビリテーションのメリットですが、左右の後ろ足のバランス感覚も戻してあげることも大事だと思っています。4足歩行である犬は、どれか一つでもバランス感覚が偏ってしまったりするとかなりのストレスを抱えていることが科学的にも明らかになっています。そのせいで、お散歩が嫌いになってしまったりするそうです。実際にリハビリテーションをサボってしまい、手術をした方の脚の筋肉がペラペラになったままの状態で過ごしていた子が散歩嫌いになってしまったことが以前にありました。
今回は膝蓋骨脱臼のお話をしましたが、どんな病気も完治させるのは手術が必要な場合があります。また手術をしてからの経過も病気や手術方法によっても様々です。我々獣医師が重要視していること、飼い主さまが重要視していることがミスマッチであることが無いよう、一生懸命に一緒にコミュニケーションをしていくことが非常に重要だと思っています。腕が良いとか、経験があるとか、専門医であるとかも大事ですが、かかりつけ医とのコミュニケーションをしっかり形成していくことがワンちゃんネコちゃん人生を豊かにしていけれる一番の近道のような気もします。
松波動物病院メディカルセンター 獣医師 松波登記臣